情報誌や広告写真などの取材で料理写真を撮るとき、お店側が「ここぞアピールするチャンス」とばかりに、あれも載せたい、これも載せたいと何品も料理を供してこられる場合がある。しかし、誌面には限りがある。掲載できる写真の点数も多くはない。「たくさん載せて欲しい」という思いはわからないでもないけれど、かえって逆効果になってしまうことのほうが多いのだ。小さい写真がちまちまあってもなんのインパクトにも残らない。パンチの効いたメイン料理をドカンと一発、という写真の方が、目を惹いて印象に残りやすいのである。
コース料理ともなると、オードブル、スープ、ポワソン、ソルベ、アントレと次々とやってくる。実際に食すときはそれぞれ一皿ずつだけれど、これを「オンパレード」で撮ると、全く冴えない写真になる。旅館のパンフレットによくある「会席御膳」みたいに、やたら品数が多い写真がそうで、一見きらびやかで華やかに見えるけど、数が増えたことでインパクトがなくなってしまうのだ。コース料理の場合、メインディッシュを一つ決めて、あとの料理のピントはぼかして「何となく後ろに写ってる」ぐらいが良い感じに伝わる。
インスタグラムでよく見る、真俯瞰から撮った「今夜の食卓」の写真も、ある意味同様である。たくさんの料理が並べられて賑やかなテーブル。しかも、真俯瞰で撮るのでどれにもピントが合っている。それぞれの料理がみんないっせいに主張していて、ボケがないので暑苦しい。真俯瞰の写真は、「記録」にはなっても「映え」はない。料理写真は強弱があった方が美味しそうに感じられるのだ。
インスタグラムで毎日のように見かけるお弁当や食卓の投稿。盛り付けはもちろん、写真のライティングも「すごい!」と感心する作品もあってプロも顔負けである。フード写真のライティングには定跡のようなポイントがある。そのポイントさえ押さえておけば、誰でも簡単に美味しそうな写真が撮れる。
カメラはスマホでもコンパクトカメラでもOK、一眼レフカメラならなおグッド。ご家庭で撮るフード写真のライティングのポイントをご紹介。
インスタグラムの料理写真は、華やかな盛り付けや食器、「デコ弁」「キャラ弁」と言われるお弁当ではアイデアに目が行きがち。でも、それを美味しそうに撮れるかどうかはライティングで決まる。せっかく腕を振るって作った料理、キレイに撮って投稿したい。
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料理写真に限ったことではないが、まずは基本中の基本、照明は「1灯ライティング」。プロのカメラマンは幾つものライトを操って撮っているイメージがあるが、ライトを何灯使おうが「影は一つ」。これは、太陽が一つであるのと同じで、影も一つなのが自然に見えるからである。
ご家庭で料理の写真を撮る場合、日中なら部屋の灯りはすべて消して窓辺で撮影を。また、それが夜なら、テーブルの上の灯りだけにして、なるべく他の部屋からの灯りや窓から入る街灯、テレビの光も入らないようにしたい。
このとき、カメラに「ホワイトバランス」を調整する機能があるならぜひ調整を。そんな機能がないカメラなら、たぶんカメラが自動調整して撮っているので無用である。それでも赤っぽくや青っぽく、緑っぽく写るようだったら後で色補正をしよう。
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「順光」とか「逆光」という言葉を聞いたことがあるだろうか。被写体(この場合は料理)に向いて自分の背中側から当たる光を順光、前から当たる光を逆光、前と横の中間ぐらいから当たるのを半逆光という。これも料理写真に限ったことではないが、とくに料理写真の場合は、逆光か半逆光で撮るのが美味しそうな写真の大きなポイントである。
料理雑誌やインスタの料理写真を見てみると、「美味しそう」に写ってる写真は「影が手前」にきているはず。つまり、逆光か半逆光で撮っている写真である。
料理写真では、カメラに付いているストロボ機能を使うのは絶対にNGだ。ストロボがオートで発光するモードになっていたら、必ず切っておきたい。
なお、<ポイント1>で(…夜なら、テーブルの上の灯りだけにして…)と書いたけれど、テーブルは灯りの真下ではなく、料理や器の影が手前にくる位置にズずらしたい。
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照明にはざっくりと、「点光源」と「面光源」の2つがある。点光源は晴天の太陽のイメージで、面光源は曇り空のイメージである。ご家庭の照明だと裸電球の灯りが「点光源」、天井のシーリングライトが「面光源」である。
同じ明るさとしても、点光源は影が強くパキッとした印象の写真に、面光源ではふんわり柔らかな印象の写真になる。アウトドア料理や激辛料理など、コントラストを強調した方が面白いときは点光源でもありだが、一般的に料理写真には柔らかい光と影の面光源を。ご家庭で日中に撮るなら、直接に陽が差し込まない明るい窓辺にテーブルをセットして撮るのがおすすめ。
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レフ板で料理に光を返すべし
影は、逆光や半逆光では、手前に流れる。それはそれでいいが、光が強い場合は前からも光を当てて柔らかく調整してやる方がいい。これは<ポイント2>に関係する。光を当てるといっても<ポイント1>で述べたように基本は1灯で。そして光逆や半逆光からの光を「レフ板」を使って返す。
レフ板をご存知ない方は、何やら怪しげに思われるかもしれない。よく、テレビや写真の撮影で、アシスタントさんが持っている白い板のアレがレフ板で、逆光撮影での光の補助のほか、俳優さんやモデルさんの表情を明るくしたり顔のシワを目立たなくしてくれる。
レフ板は写真の機材売場で売られている。でも、わざわざ購入する必要はなく、単なる「白い板」なので、段ボールに白い紙を貼ったのでも良いし、発泡スチロールでも、ノートを開いて立たせるのでもかまわない。プロのカメラマンでもそうやって使ったりする。手近なものを使って問題なしである。
レフ板の使い方は、立てて置くだけ。料理に当たっている逆光や半逆光の光を受けて、手前に流れている影を柔らかくしていく。
レフ板の大小は、被写体の大小にも関係する。コースのパーティー料理をドドンと並べて撮るなら襖ぐらいの大きなレフ板が必要で、カップのアイス一つを撮るぐらいならB5判のノートでもあれば十分。そこは臨機応変に。
レフ板が大きければたくさん光を返し、近づけると強く返すので、その加減はお好みで。ただ、返しすぎると年齢の割にシワのない白すぎる女優のように不自然になってしまうのでそこそこに。