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国産ウイスキーが品薄になっている理由は?|原酒不足と樽の不足

世界中で品不足、大人気のウイスキー

品薄なのに、なぜウイスキーは増産されないの?

ここ数年、ジャパニーズウイスキーの人気が高い。国際的な評価を得たことやインバウンド需要もあって、とくに「山崎」「白州」「響」「竹鶴」「富士山麓」といったラベルが漢字表記の高級ウイスキーは品薄状態が続いている。ウイスキーは製造から出荷までの期間がとても長い。足りなくなったからと急いで増産しても、それが商品になるまでには大変に長い年月を要する。長い時間をかけて眠らせることで自然熟成がすすみ、香りや味わいが育っていくのだ。

原酒不足で続々と終売が発表されているウイスキーだが、世界で最も人気のある最高級モルトのひとつ「ザ・グレンリベット12年オークカスク」も残念ながら終売となった。世界最古の蒸留所で作られている「ザ・グレンリベット12年」だが、某ホテルのバーテンダーによると、こちらはウ イ スキーの熟成に必要なオーク樽が手に入らなくなったゆえの終売という。

モデルチェンジしたグレンリベット12年 バーカウンターでの写真 組立通信LLC.
ザ・グレンリベット12年。左は終売になってしまったオールドボトル。

日本のウイスキーやスコッチウイスキーの熟成には新樽が使われることもあるが、主流となっているのは古樽。それも、バーボンウイスキーの古樽だ。高級ウイスキーを熟成させるのに適していると言われるシェリー酒の古樽は、品薄もあって市場が高騰している。
他方、バーボンウイスキーは、オーク材の「新樽」を使うことが法律で義務付けられている。そこで、バーボンウイスキーの古樽は、バーボン樽としては再利用できないので、日本のウイスキーやスコッチウイスキーのゆりかごとして再利用されるのだ。

ウイスキーは「樽」で熟成させないと作れない

ウイスキーの新樽で1度その役目を終えたものは「1空き」と呼ばれ、その後「2空き」「3空き」と再利用が繰り返される。そうして何度かウイスキーの貯蔵・熟成の役目を務め、約50年間使われて、ゆりかごとしての務めを終える。そして、ウイスキーの貯蔵・熟成の役目を終えた樽は、家具や工芸品と姿を変えて新たな役目を務めることになる。

ウイスキーの原酒不足が問題になっているが、原酒を貯蔵・熟成させる樽不足となると、原酒不足より問題が深刻だ。樽が不足しているということは、樽材自体もが不足しているということだろう。

樽もウイスキーの「原料」の一つ

ウイスキーの主原料は原料は大麦だが、熟成に欠かせないのは樽である。つまり樽材のオークもウイスキーの原料の一つなのだ。そのオークが不足しているということは、ウイスキー造りの大ピンチなのである。
バーボンウイスキーの樽材のオークは、アメリカンオークやホワイトオークと呼ばれ、バーボンのほか、シェリーやワインの樽としても使われている。樽材となるオークの樹齢は80年から100年だ。最近注目されている日本オークのジャパニーズオーク、ミズナラともなると、樽材になるまで200年とも250年とも言われている。木は、人の寿命以上に長い歳月をかけないと育たないのだ。

主原料の大麦は1年で収穫できるが、オークは少なくとも80年が必要だ。ウイスキー樽の寿命が50年とすると、原酒の需給と同様に樽材の需給バランスが壊れているということになる。

ウイスキーの種類

モルト
ウイスキー
大麦を発芽させた「麦芽」を原料に造られたもの。ウイスキーが誕生したそもそもの姿がこのタイプのウイスキー。造られた蒸溜所ごと、製法ごと、樽ごとに個性が異なる。それぞれの個性の違いを楽しむマニアなファンが好んで飲むウイスキー。 ザ・マッカラン/ザ・グレンフィディック/山崎/白州/竹鶴 など。
グレーン
ウイスキー
トウモロコシ、小麦、ライ麦などの雑穀を原料に造られたウイスキー。モルトウイスキーのような「ピート香」もなく、柔らかく穏やか。 サイレントウイスキーとも呼ばれている。通常、ブレンド用に使われるので、単独で製品になることはない。 知多/カフェグレーンなど(珍しい例)。
ブレンデッド
ウイスキー
モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたウイスキー 。グレーンウイスキーが開発され、モルトウイスキーとブレンドすることで飲みやすくなりウイスキーの市場が一気に広がったと言われる。市場に出回るウイスキーの約9割がこのタイプで、普及品から高級ウイスキーまでさまざまなバリエーションがある。通常、モルトウイスキーが20~30%対グレーンウイスキーが70~80%でブレンドされている。 ホワイトホース/ジョニーウォーカー/シーバスリーガル/響/角瓶/スーパーニッカ/ブラックニッカ/トリス など。

ウイスキーに芳醇な風味をもたらす「熟成」

ニューポットと呼ばれる蒸溜したばかりの若いウイスキーは、アルコールそのものといった感じで荒々しい。これを、木の樽に詰めて熟成させる。5年、10年、15年と樽の中で長い眠りにつくのだが、その長い眠りがまろやかな風味をもたらしてくれる。
ウイスキーの熟成の秘密はいまだに解明されていないというが、ウイスキーは樽の中で眠る間、熟成と引き換えに年に数%ずつ目減りしていく。その目減り分はAngel’s share(天使の分け前)と呼ばれている。

日本のウイスキーと天使の分け前のイラスト 組立通信LLC.

酒類の業界紙で編集長をしていた頃、洋酒系記事の記者も兼ねていて、ウイスキーの蒸溜所やワイナリーによく訪れた。今の品薄状態とは逆だが、酒の業界にいた頃は「酎ハイ」の大ブームで、ウイスキーの需要は下降していた。需要にブレーキが掛かったとしても、急に減産するわけにもいかない。

その当時、今はないオーシャンウイスキーの取材で軽井沢の蒸溜所を訪ねた。そこでは主力である量産品の2級ウイスキーではなく、「軽井沢」という高級シングルモルトウイスキーを製造していた。当時「オーシャン」は、サントリー、ニッカ、キリン・シーグラムに続いて業界4位。シェアも3%そこそこで、上位とは大きく水をあけられていた。その中で、主力商品ではないシングルモルトの「軽井沢」をコツコツと作り続けていた。 取材の折、工場長がボソリと言ったことばが印象的に残っている。

「今造っているウイスキーが飲めるのは、定年後だなぁ」

今宵も、ウイスキーの天使に、乾杯。

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