ペンギンが好きすぎて企画した『ペンギンの飼い方』を出版した2010年、ペンギンたちと長い時間を過ごしました。『ペンギンの飼い方』は、真面目にペンギンの飼い方を取材して作った本です。 水族館や動物園でのペンギンの取材を通じて、さらにペンギン愛が増しました。とりわけ大阪の海遊館と長崎にある長崎ペンギン水族館に大変お世話になりました。あれから10年を経た2020年。今いちど『ペンギンの飼い方』を振り返ってみたいと思います。
世界にいる18種のペンギンのうち、11種もが飼育されている日本は、ペンギンの飼育・繁殖技術は世界でもトップレベル。そう、日本は全国約100か所で2000羽以上ものペンギンが飼われているペンギン大国なのです。
ペンギンといえば南極のイメージがありますが、南極大陸で繁殖するのはコウテイペンギンとアデリーペンギンの2種類だけで、ガラパゴスペンギンは赤道近くのガラパゴス諸島に生息しています。
温暖な地域に生息するフンボルトペンギンやケープペンギンなどのペンギンは、寒冷地に生息するペンギンに比べ、ある程度日本の気候にも順応してくれるので冷房のコストが抑えられると言えます。
なお日本で飼育されていない7種のペンギンたち(ロイヤルペンギン、シュレーターペンギン、フィヨルドペンギン、スネアーズペンギン、キガラシペンギン、ハネジロペンギン、ガラパゴスペンギン)は、いずれも絶滅危惧種や危急種として保護対象になっています。これらのペンギンたちは生息地で保護され、国際取引が制限されているため、生息地から持ち出して飼育することはできません。
日本で飼育されている11種類のペンギン<鳥綱ペンギン目> | |
エンペラーペンギン属 | コウテイペンギン(別名エンペラーペンギン) |
オウサマペンギン(別名キングペンギン) | |
アデリーペンギン属 | アデリーペンギン |
ヒゲペンギン(別名アゴヒモペンギン) | |
ジェンツーペンギン | |
フンボルトペンギン属 | フンボルトペンギン |
マゼランペンギン | |
ケープペンギン(別名アフリカペンギン) | |
コガタペンギン属 | コガタペンギン(別名ブルーペンギン、フェアリーペンギン) |
マカロニペンギン属 | マカロニペンギン(別名ブルーペンギン、フェアリーペンギン) |
イワトビペンギン(別名ロックホッパーペンギン) |
ペンギンは飛べないけれど、鳥です。動物界の分類では鳥類(脊椎動物亜門)を意味する鳥綱のペンギン目(Sphenisciformes)で、人と同じく直立して歩くので「人鳥類」ともいわれます。なお、鳥類の中で同じく飛べない鳥(ダチョウ、キーウィ、エミューなど )は 「走鳥類」と分類されています。
ペンギンは飛ばないけれどスイスイ泳ぐ「海の鳥」で、泳ぎのうまさも潜水能力も鳥類ナンバーワン。コウテイペンギンは20分以上、水深500メートル以上も潜ることができるといわれています。自然界で暮らすペンギンたちは一生涯を陸地より海で長く過ごしますが、水族館や動物園のペンギンたちは、海に餌を取りに行く必要がないのでほとんどを陸地で過ごしています。
陸地を歩くペンギンたちが、よちよち、ぴょんぴょん、のしのしと歩く姿は何とも愛らしいですよね。人鳥類とも言われるように、まるで短足の子どもが歩いてるかのよう。見ていて飽きない、というか、いつまでもずーっと見ていられます。
そんな愛らしいペンギンたちですが、かなりの大食い。空を飛ぶ鳥たちは食べ過ぎると体が重くなって飛べないので小食ですが、ペンギンは、あのメタボ体系を見てもわかるように、がっつり食べて皮下脂肪もたっぷり蓄えています。ちなみに水族館や動物園では、シシャモやワカサギ、イカナゴ、アジ、ホッケなど、人間とほぼ同じ魚を食べさせています。
ペンギンは抱きしめたいほどかわいいですが、実は、とても臭いんです。ガラス越しに見ているとなかなか分かりませんが、取材で初めて海遊館のペンギンの展示室に入ったときは鼻がひん曲がりそうでした。
ペンギン特有のニオイは、魚がすえたような独特な生臭いニオイで「ペンギン臭」と言われています。これは、陸上でも水中でもところ構わず出す糞のニオイと、全身の羽の手入れのためにお尻の穴近くにある尾脂腺から分泌される脂のニオイが原因です。
ところが、この強烈なニオイさえ、一緒にいるとだんだんと愛おしくなってくるから不思議。たぶん、ペットや家畜を飼っている人は、愛おしいと思うかどうかは別にしても、日常のことなので自分で飼っている動物のニオイなど気にならないと思います。取材を重ねているうち、自分の衣服に移ったペンギン臭をクンクン嗅いで「芳しい」と、ひとり悦に入っていました。そして取材の帰りには決まって青魚が食べたくなり、刺身をつまみにペンギンたちとの一日を振り返って一杯やるのでした。
犬や猫はもちろん、牧場の牛や豚、鶏など、動物にニオイはつきもの。ペットでは飼い主の都合で風呂に入れたり洗ってグルーミングをしたりしていますが、自分の臭いを落とされる犬や猫たちは大迷惑なはず。動物にとってニオイは大切なものなのです。
陸ではのたのた歩くペンギンも、水に入ればまるでヒト(?)が変わったかのように素早い動きを見せます。野生では、泳いでる魚やイカなどを捕まえるのだから動きも俊敏。そして、捉えた獲物を離さないクチバシは、まるでニッパーのように鋭い凶器です。餌の魚を一匹ずつ手で与える方式の園館さんでは、飼育員さんの指や手はペンギンに噛まれた傷跡だらけです。
さらに、猛烈なスピードで泳ぐペンギンの「翼」はフリッパーと呼ばれ、これも凶器の一つ。空を飛ぶ鳥の翼は骨に空洞があって軽いですが、ペンギンのフリッパーは、水の抵抗に負けないようずっしり重くできています。大型のエンペラーペンギンやキングペンギンのフリッパーは、まるでボートを漕ぐオールのよう。そんな凶器を振り回して攻撃されたら相当痛いに違いありません。
それでもペンギン好きとしては、水族館でキングペンギンにしばかれたり、ジェンツーペンギンにつつかれたり、イワトビペンギンに頭突きをされてみたいと思うのです。「体験者が怪我をしても責任を負いません」という念書があれば、喜んでサインして体験したいです。
海遊館の取材のご縁で講演させていただいた『ペンギン会議』の壇上で、そのささやかな願望を話してみたら同じ思いの人々と共感しあえてとても嬉しかったです。
取材では叶いませんでしたが、ペンギン偏愛者としては、燃える闘魂のビンタのごとく、一度はエンペラーペンギンやキングペンギンの重いフリッパーでしばかれてみたいと夢見ています。
1、2、3、ダーッ!