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マーケティングのおすすめ本|USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

泣けるビジネス書、森岡毅さんのおすすめ本

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?

ビジネス書のジャンルなのに、読んでいて泣けてくる本はないだろうか?新幹線で読み始めたら止まらなくなり、いつしか涙がにじんでいた『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』
プロマーケッターでプロ経営者の森岡毅さんが、ユニバーサルスタジオジャパンを3年間でV字回復させた軌跡をまとめたビジネス書である。東京ディズニーランドに続く、日本で2番目の集客施設であるユニバーサルスタジオジャパンは、開業10年目にして来場者数700万人という過去最低の状態だった。

テーマパークは国や地域の豊かさの象徴のような存在である。森岡毅さんが着任された2009年、世の中はデフレのどん底だった。リーマンショック後で世界中が不況で、私たちも大阪で沈んでしまいそうで、抗うように情報誌や書籍の発行に挑戦し、法人を設立した年だった。規模は大きく違えど、七転八倒していた日々に、なぞらえてしまうものがある。
USJは記念すべき10周年を迎えようというのに、お金がない。お金がなければアイデアで感動させよう。人気アニメ「ワンピース」を柱に、勝負で仕掛けた2011年3月。10周年イベントが始まった翌週、東日本大震災が起こってしまう。それから日本中が長い自粛ムードに包まれ、USJはじめ日本中のテーマパークに閑古鳥が鳴いていた。

万策尽きたか!いやまだ情熱という武器がある

もしあの震災自粛の衝撃によって我々があれほど追い詰められることがなければ、これらのアイデアを思いつくこともなかったでしょう。

森岡毅 著『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』

着任後、年間売上800億円の企業に、450億円もの投資をしてハーリーポッターを誘致する計画をすすめていたという森岡毅さん。当初からUSJを、それまでの関西依存ではなく、VS東京ディズニーランドでもなく、日本中から世界中から来たくなるパークにしたかった、という。

  • 映画好きのための「映画だけ」の施設は不必要に狭い!
  • 「大人だけ」のテーマパークも不必要に狭い!

紹介されているのは、企業にとって必要不可欠な数字重視のマーケティング。
戦略的かつ数学的に考えるイノベーションフレームワークの発想法はとても左脳的で応用範囲が広く、それだけで役立ちそうだけれど、、、。

けれど企業案件で経験上、もともと真面目で頭の固いタイプ、エリートタイプの人がこの左脳的発想法にはまると、なんとも面白みのないクリエイティブになってしまう。調査データやグループインタビューの結果重視で、お客様ほったらかし、というか、会議室で考えすぎというか。

でも、読み進めるうちに感じたのはこの『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』は、たんなるマーケティング本ではない、ということだった。
「愛」が溢れているのだ。
森岡毅さんという人の放つ、企業への、仕事への、テーマパークへの愛。ハリーポッターやモンスターハンターやワンピースへの愛。エンターテイメントへの愛。
USJで関わったあらゆるものへの愛と責任と情熱が、言葉から湧き出ている。

追い詰められて万策尽きたと思ったときでも、たとえ計算上では勝算が立たなくても、本当に大切なことならば絶対に諦めずに行動することで局面を動かせることがあるのです。情熱が予測もできない局面突破を呼び込むことがあるのです。

森岡毅 著『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』

森岡毅さんは一見、外資系出身のお堅いマーケターなのに、プライベートでももともと大のテーマパーク好きで、カルチャー大好きで、すごい凝り性。
それぞれに時間をつぎ込んで世界観に徹底的にはまり、誰よりも一番のファンになる。
そしてファンを代表して、ファンのために周りを巻き込みつつ、困難を乗り越えながらユニバーサルスタジオジャパンに誘致する。「ファンとして自分が見たい」「ファンの人達に見せてあげたい」という熱い想いが燃えたぎっている。

アイデアとは、死ぬような思いで考え続けて思いつく、あっけないほど単純なこと。
ある問題について、地球上で最も必死に考えている人の所にアイデアの神様は降りてくる。
エンターテイメントがないと人は生きていけない、と信じている。

私にはもう一つ、自分の中から強く湧き上がるモティベーションがあります。それは単純に世界中にある、本当にすごいもの、美しいもの、楽しいもの、感動するものを、何としても日本の人々に見せたいという強い願いです。

森岡 毅 著『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』

電卓は常に離さないけれど、どこまでも熱い浪漫が溢れている。テーマパークで魔法にかかるタイプではないというのに、魔法にかかった、幸せそうな人々の笑顔を見に、USJに行きたくなってしまった。
読後感があたたかく、読み物としてもおすすめしたい、抜群に面白いマーケティングのおすすめ本である。

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