エールフランス航空の機内で流れている安全映像。非常時の行動を促す真面目な映像なのに、あまりのかわいさと色彩センスのよさに、思わず見入ってしまった。
エールフランス航空では、客室乗務員の制服も「どの航空会社よりもおしゃれであることが求められる」というミッションのもと、デザインされているという。その「どこよりもおしゃれ」なブランドミッションが伝わってくるキュートさ。客室乗務員の制服も機内の安全映像も、搭乗した飛行機の機内で、乗客全員が必ず目にするブランドアイデンティティである。
でも、これを日本の航空会社で流したら、苦情が殺到しそうな。
残念ながら日本はいまだに男尊女卑社会であり軍事国家的な風潮がある。「かわいい」「楽しい」=ふざけてる、ふざけるな!と変換する堅物な人は意外に多い。機内安全ビデオしかり、手話ニュースでも、画面に登場するのは極めて地味な装いの化粧っ気のない方であることが多い。聞こえない人の見る楽しみをもう少し気遣ってもいいように思うけれど、「まじめなものは地味であるべき」風潮がある。受け手にとってはコンテンツとは、「見せられる」より「魅せられる」ほうが、よほどメッセージが伝わるのだけれど。
五輪の水泳金メダリストの北島康介さんが「日本の練習は世界でも厳しい」とインタビュー記事でいっていたが、アメリカでは、オリンピッククラスの選手でも、ゲーム感覚の遊びみたいな練習に選手たちは真剣に楽しんで取り組んでいるという。楽しい方が身に着くから、日本にも楽しく練習できる場を提供したい、と。
※外部リンク エールフランス航空の機内安全映像
エールフランス航空、さすがだなあ…とうらやましく思っていたら、ANA全日空の機内安全映像も2018年12月(※国際線は2019年1月)から、素敵な挑戦をしていた。
ANA全日空の機内安全映像、素晴らしい…なにがさすがって、世界に誇る伝統文化の歌舞伎を起用したこと!「男性が」「一流の芸をもって」「楽しんで」「魅せている」のだ。どんな堅物な批評家にもネクラな苦情が言えない、プロデューサーの巧妙な起用を想像してしまう。飛行機の着陸後、ドアオープンを待つ間に流れるメイキングビデオの映像もぬかりなし。狭い機内でのストレスが緩和されそうな、気のまぎれる映像になっている。
※ 歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人
※ ANA、機内安全ビデオを「歌舞伎」テーマにリニューアル トラベルWatch
ところでフランスからの帰路、エールフランス航空のストライキに見事に当たってしまい、超長時間シャルルドゴール空港で缶詰めに。疲れ果てて乗り込んだ飛行機の席に着いたら、客室乗務員が「何もなかったような」満面の笑顔でブランデーのミニボトルをプレゼントしてくれた。
ああ、時間に正確かつ仕事にまじめ。世界に誇りたい「日本の美徳」を再認識してしまった。