日本で外国人に接客サービスを受ける機会が多くなった。東京の上野で、もんじゃ焼きのお店に入ったら、「イラッシャイマセ!」と威勢のよい、たぶん中国系の店員さん。
「焼キカタ、ワカリマスカ」と聞かれて「わからない」というと、もんじゃを焼きに来てくれたのは東南アジア系の女性だった。
器用にヘラを使って、日本人の私にも焼けないもんじゃ焼きが焼かれていくのを待つ間、まだ10代かもしれない、あどけなさが残る顔を見ていて話しかけてみたら「ミャンマーから出稼ぎにきた」という。
ほんの数年前まで軍事政権が支配していたミャンマーは、経済成長の著しさが報道されているが、人口700万の最大都市であるヤンゴンでも、郊外では水道も電気も整っていない、と聞いたことがある。遠く離れた日本で、言葉も文化も違う場所で働く心細さを想像しつつ、「日本語には慣れましたか」と尋ねてみると、首を横にふり「ムズカシイ、オ酒ガ、トテモ」という。
確かに…日本ほど、ドリンクメニューが多い国は、世界でもめずらしい。それも庶民的な居酒屋でも、ドリンクメニューが別冊で独立しているほど豊富である。サワーにチューハイ、ハイボール、梅酒にワイン、ジンにリキュールにウィスキー…実にさまざまなお酒があり、かつ飲み方もいろいろ。
ためしに某チェーン居酒屋の「レモンサワー」を取り上げてみると、
「レモンサワー」だけで、これでもかのレパートリー。飲料メーカーの営業努力だろうか、頼む客の方も目が泳ぎそうに、本当にいろいろ…あり過ぎる。
プロ経営者の魚谷雅彦さんは、著書に「日本の消費者は世界で最も舌が肥えている」と書かれている。外国人には、ウーロン茶と緑茶の味の区別がつかない人が少なくないそうで、日本のマーケットは世界から見ても独自性があり、日本の消費者は世界で最も多様なものを受け入れているという。
日本人は一週間で9種類ほどの清涼飲料水を飲んでいる、というデータもあります。なぜこのホモジーニアス(均一)な国で、これほど飲み物や食べ物で多様なものが受け入れられているのか、世界でも驚かれているらしい。
魚谷雅彦著『こころを動かすマーケティング』
神田の居酒屋でアルバイトをしていたタイ出身の男子は、とりわけ焼酎や日本酒の名前が難しくて、と苦戦していた。日本酒や焼酎となると、日本人にさえよくわからない読み方のネーミングが多い。相良兵六、坐忘、くじら綾紫、赤兎馬、不二才など、指さして「これください」とオーダーする人も多いのではないだろうか。
日本の飲食店で働くのも大変だなあ、ともんじゃ焼きを食べ始めると、後ろからハングル語の女性たちの声が聞こえてきた。見渡せば、斜め前には中東っぽい中年男性の二人組。もんじゃ焼き屋さんの店内にいる日本人は、なんと私たちだけだった。帰りに寄ったコンビニでは、レジのスタッフはトルコ人で、妙に「国際都市」を実感した一日だった。そしてふと疑問がわいてきた。遠い異国から日本に来て暮らし、働いている人たちを、政治家やマスコミは「外国人労働者」と呼ぶけれど、はたして彼らは「労働者」なのだろうか。誰のための労働者なのだろう?
日本は「小さな島国だ」、と思いこんでいた。ジャグジーで知り合った初老の米国人は、コンサルタント会社のオーナーで、日本企業の海外進出をサポートしているという。
なぜにビッグなアメリカから、日本のようなスモール・カントリーにきてビジネスをしているのか、と尋ねてみたら、しばしの沈黙。戸惑うような表情で、こんな言葉が返ってきた。
「ノー、日本はスモール・カントリーじゃない、ミドル・カントリー。チャイナやアメリカは、メガ・カントリー。国土が広いだけ。」
なんと、今まで「小さな島」と認識していた日本。国のサイズを改めて調べてみたら、独立国家194国のうち、日本の大きさは61位。イタリアもドイツもイギリスもニュージーランドも、日本より小さかった。オーストリアは北海道、オランダは九州ぐらいの面積だった。日本と比較してみると、
抜粋して表にしてみた。メガ過ぎるロシアはともかく、2位のカナダから7位のインドぐらいまでをメガカントリー、サウジアラビアからトルコあたりをビッグカントリーというのだろう。飛行機で上空から見てみると、メガカントリーは人が住めない面積も広い。
順位 | 国 | 面積(km2) | 小ネタ |
---|---|---|---|
1 | ロシア | 17,124,442 | 最大国 |
2 | カナダ | 9,984,670 | |
3 | アメリカ合衆国 | 9,631,420 | |
4 | 中華人民共和国 | 9,596,960 | |
5 | ブラジル | 8,515,767 | |
6 | オーストラリア | 7,899,987 | |
7 | インド | 3,287,263 | |
12 | サウジアラビア | 2,149,690 | |
13 | インドネシア | 2,098,832 | |
29 | エジプト | 1,001,450 | |
36 | トルコ | 783,562 | |
49 | フランス | 551,500 | |
50 | タイ | 513,120 | |
51 | スペイン | 505,992 | |
61 | 日本 | 377,975 | |
62 | ドイツ | 357,578 | |
65 | ベトナム | 331,212 | |
71 | イタリア | 301,336 | |
78 | イギリス | 242,495 | |
88 | カンボジア | 181,035 | 日本の1/2 |
95 | ギリシャ | 131,957 | 日本の1/3 |
104 | キューバ | 109,884 | |
107 | 大韓民国 | 100,033 | |
108 | ハンガリー | 93,027 | 日本の1/4 |
113 | オーストリア | 83,871 | |
133 | オランダ | 37,354 | 日本の1/10 |
ビッグかスモールか。いや、その間にはミドルがある。日本は小さくはない。まさにミドルサイズだ。そもそも明治維新まで「藩」で分かれていたわけだし、色々とまとまらないのは、そこそこ大きいサイズだからなのかもしれない。
なお発酵学者の小泉武夫さんによると、「日本は四方を海に囲まれた海洋国であって、臨海海岸線(海に接している海岸線の総延長キロ数)は世界第二位とも三位ともいわれる島国である」そうだ。臨海海岸線世界第2位なんて、すばらしい。海の幸と山の幸に恵まれて、世界が驚く舌の肥えた国の理由がわかった気がした。
ちなみに地球の表面積の71.1%、ほぼ7割は、海である。のこり3割の陸地(28.9%)のうち、1/3は森林で(9.6%)1/4は砂漠(7.2%)。人が居住できる面積は、地球の12%に満たない。地球のわずか1割にしか住むことができない人間が、地球環境を破壊していっている。たびたび大きな天災が起こるのは、宇宙や惑星、地球からの啓発なのかもしれない。
参考リンク:意外に大きい日本の国土