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繁盛店からみる「メニューと仕込みの工夫」|人気の飲食店は客目線

料理が出てこない飲食店の「遅い!」理由

メニューの数は少なめに

新しくオープンした飲食店に行くなら、1~2カ月ぐらい様子を見てからがいい。オープン直後の飲食店は「オーダーしたいのに注文を取りに来ない」「なかなか料理やドリンクが出てこない」「片付けがモタモタしている」の三重苦にあう確率が高いのだ。スタッフがオペレーションに慣れていないので上手く回っていない。つまり段取りが悪いのである。

一方、それなりに長くやっている飲食店でも、注文はしたものの料理がなかなか供されないことがある。そんな「遅い店」のパターンの一つに「やたらメニューの数が多い」というのがある。和洋中にエスニック、煮物・焼き物・揚げ物・蒸し物・和え物…。牛・豚・鶏に鮮魚や野菜。おにぎり・お茶漬け・握り寿司。カレーにラーメン、ピッツァやパスタ、デザートも。さらにドリンクメニューも各種多彩な品ぞろえ…。

チェーン店ならいざ知らず、客の要望に応えようとして増えたのか、方向性を見失ったのか。供するまでの時間が長くなるのも当然だろうし、仕入れも大変でロスも相当なはず。なのに店側はそれに気づいていない。そして「料理が出てこない店」に限って仕込みを怠っていて、メインの料理をオーダーを聞いてから一から作り始めたりする。

シェフのこだわりはほどほどに

銀座のとあるフレンチのお店では、着席してからたっぷり1時間待たされた。メインがグリル料理だったこともあるが、見渡せばどのテーブルも料理待ちの状態だ。「オペレーションが悪い」と言ってしまえばそれまでだが、準備から盛り付けまでやたらと手のかかるメニューばかりだった。シェフのこだわりが強すぎて調理に時間をかけ過ぎなのだ。カウンターごしに観察していたが、シェフの意識は料理だけにいって、客には向いていなかった。

頑固な料理人の職人気質も大切だが、オペレーションの速さの方が、客にとってはメリットが大きい。おかげで場が持たず、お腹を空かせて「まだか、まだか」とオーダーした料理を待ちながらワインをグビグビ飲むことに。料理が出てきたころにはちゃぷちゃぷのワイン腹になっていて、残念ながら料理の味も覚えていない。事前に予約して行ったのに、何のための予約だったのか謎だった。

仕込みと下ごしらえはしっかりと

飲食店のメニューは少なすぎると寂しいが、繁盛している飲食店は、限られた食材を上手に組み合わせてメニューを豊富にする工夫をしている。同じ材料でもベースとなる調味料を変えてみたり、調理法を変えてみたり。もちろん、すぐに盛り付けて供せるように、下ごしらえや仕込みにも工夫がある。

オーダーを聞いてから仕込みを始めるダメな店
赤坂で炭火焼と農家直送の有機野菜を売りにしている居酒屋でのこと。オープンキッチンのカウンターがメインのその店は、キッチンに2人とホールに3人のスタッフで先客は二人連れの一組だけだった。初めて入る店で、瓶ビールとともに、ご自慢の炭火の焼き鳥と産直有機野菜のサラダをオーダーした。ちなみに、その時の付き出しは、こだわりのフルーツトマトだった。

 

「切っただけ」の付き出しのトマトと「栓を抜くだけ」の瓶ビールはすぐ供されたものの、最初にオーダーしたビールを飲み終わる頃になっても、一緒にオーダーした料理が出てこない。出てこないどころか、キッチンのスタッフは足りない食材でも買いに走ったのか2人とも居なくなってしまった。やがてかれこれ30分。二人は食材であろう何かを抱えて戻ってきたが、そこでやおら鶏肉を取り出しようやく「焼き鳥の仕込み」をしはじめた。

他方、おそらくオーダーした有機野菜のサラダに使うと思われる野菜たちが「産地から届いたままの姿」でシンクに運ばれていく様子を見て、オーダーをキャンセルしてお店を出た。恐らくあと30分待ったとしても何も出てこなかっただろう。段取りが悪い、それ以前に、開店前に「仕込み」をしていないのである。仕込みをしないでオペレーションをするなら「すべてを業務用スーパーで仕入れてレンジでチン」または「セントラルキッチンから配送」しか方法はないだろう。

繁盛している店は「仕事が早い」

東京駅の八重洲地下街で繁盛しているとある居酒屋では、オーダーを受けたら料理人は「盛り付けするだけ」でいいぐらい徹底した仕込みをしている。ファストフード店なみのクイックサービスだが、見てても別に忙殺されているふうではない。皆さんかなりベテランの料理人でもあり、やるべき仕事の役割や手順が染みついている、という感じだ。動きに無駄がなく段取りがいい。皿に盛り付けるあしらいの位置や枚数まで決めてある。繁盛店には、オペレーションや仕込みにもそれなりの工夫があるのだ。

繁盛店のメニューには工夫がある

異業種から参入、でも人気店になったカフェ

飲食店を取材してきて「なるほど」と思った繁盛店がいくつかある。そのカフェの店主は、それまで小さな印刷会社を二代目として経営されていたが、時代の流れにより会社を畳むことになった。しかしビルの立地が抜群だった。商業地域で路面の一階、天満宮や観光施設のすぐ近くと恵まれていたこともあり、検討の末、カフェに業態転換をすることにした。印刷業という異業種で飲食店の経験もなく、まったくの素人だったので「何か武器を持たないと…」と考えて「名物を作ろう」と思い至った。

そのカフェの名物は「カツサンド」。注文を受けてからカツを揚げ、カウンター越しの鉄板でパンを焼く。一つひとつ丁寧に作り上げたそのカツサンドは、盛り付けも美しく、揚げたての厚切り肉とソースの相性も抜群だ。

ワーズカフェの名物カツサンド 組立通信LLC.コンテンツサイト

名物は強力な武器になる

だが、カツサンドはカツサンドである。美味しいけれど、飛び抜けて個性的、というわけではない。ましてやそのカフェ周辺には、洋食店も喫茶店もパン屋さんもある。そしてどちらのお店もカツサンドを扱っていた。ただ、周辺のお店との違いがあった。このカフェだけが、メニューに「名物・カツサンド」と明記している点である。
カフェのマスターの人柄もあって、今やすっかり有名になりファンも多い繁盛店である。途中からもう一つの武器「名物・アップルパイ」も加わってさらにパワーアップしている。

取材対象をいつもネットや情報誌でリサーチしているメディア側にとっても「名物」は取り上げやすいし、なんといっても書きやすい。「名物といわれても、まだそこまででは…」と尻込みするオーナーも多いが、「名物」や「人気」は言ったもの勝ちの言葉なのである。どの店にもあてはまる方法というわけではないが、名物は「自分で作って伝える」ものでもあるのだ。

キャッチコピーでメニューに工夫を

「ビールに最高!」 「 アツアツ揚げたて!」

メニューは提供する商品の名称や説明をする「お品書き」だが、お客様との接点となる重要なツールでもある。事前にネットや情報誌で調べているならばともかく、初めてのお店で注文をするときは、まずはメニューを見て選ぶのが普通だ。メニュー表やメニューブックのある店もあれば、「本日のおすすめ」と記した黒板やホワイトボードを掲げる店もあるし、大衆的な食堂や居酒屋なら壁にメニューの短冊が張られている。高級割烹やBARなどメニューのないお店もあるが、大半のお店にはメニュー(お品書き)が置いてある。

30代半ばの店主が営むある居酒屋は、オープンして数年。カジュアルな洋食系の居酒屋で、スタッフたちも明るくて元気がいい繁盛店だ。このお店では、お手製のメニューブックを使っていた。おそらく文房具屋さんか写真店で買ったアルバムだろう。メニュー名と値段に加え、かわいい挿絵とコピーが一言が添えられている。そのコピーが「おや?」と思わせるのだ。

例えば「チキンバスケット」には、「ビールに最高!アツアツ揚げたて!」のコピー。別にヒネったコピーではない。「ビールに最高!」も「アツアツ揚げたて!」も当たり前と言えば当たり前だ。が、、、

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チキンバスケット 780円

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チキンバスケット『ビールに最高!アツアツ揚げたて!』 780円

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大人気!朝引き地鶏の チキンバスケット『ビールに最高!アツアツ揚げたて!』 780円

さぁ、この3つのメニュー、どれを注文したくなるだろう?メニューはお客様へのメッセージでもあるのだ。
普通の「生ビール」に添えられたコピーも「生ビール(中ジョッキ)『今日も一日ご苦労様でした!』 480円」。何だか、愛と情熱を感じてしまった。
ヴィレッジヴァンガードのような凝ったコピーが書けなくても、見る人を想って書いたコピーは、短くても伝わる。繁盛店の秘密の一つを見た気がした。

店主のこだわりすぎ、凝りすぎのメニューはNG

一方、取材先で「何この料理?」と思ったメニューもある。
そのお店は繁華な商業エリアの路面にある、創作イタリアンのお店だった。新店だが居抜きで借りた店舗で、それなりの年季が入っていた。オーナーは別に事業をしていて、飲食店でのキャリアがある40歳ぐらいの店長が取材に応じてくれた。
店長は店の概要やPRしたいポイントなどをオーナーに代わって答えてくれ、取材はスムーズに進んだ。だが、メニューブックを見せてもらい「何コレ?」となった。 そこには、赤面するようなポエムがメニューにならんでいた。

  • とうきび畑の想い出
  • シンデレラの晩餐会
  • 森のきのこのかくれんぼ

いくら創作料理でも、さっぱり何のことや分からない。尋ねてみたら「とうきび畑の想い出」はトウモロコシたっぷりの温サラダ。「シンデレラの晩餐会」はパンプキンスープのようなもの。「森のきのこのかくれんぼ」はきのこを使ったパスタだった。どれもオーナーに強いこだわりがあって命名したという。

メニューブックにはそれらの料理の説明は一切なく、店長は「オーダーを取るたびにお客さんに説明しなければならなくて」とこぼしていた。こだわるのもいいが、奇をてらいすぎて、誰のためのメニューブックなのか分からなかった。大の大人の男が「シンデレラの晩餐会をひとつ」なんて、声に出して言えるのだろうか。
その後、その店がどうなったか定かでないが、お客様は誰なのか、メニューやキャッチコピーを作る時は、誰かの顔を思い浮かべて作った方がいい。

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