バービギナーが「バーはハードルが高い」と感じている理由に「何をどう注文していいか分からない」のほか、「料金相場が分からない」「ぼったくられるのではないか」と言った金銭的な不安があるからではないでしょうか。
正直、都会や観光地の繁華街でデンジャラスなエリアにある怪しげな雰囲気のお店で、店名は「バー〇〇〇」などと名乗りながら、店に入ってみると化粧の濃いお姉さん(?)が媚びた声で「いらっしゃ~い」と出迎えてくるようなバー(?)は、正統派のオーセンティックバーとはかけ離れています。「接待を伴う飲食店」というやつで、「座っただけで◯万円」という場合もあると思います。
まぁ、バービギナーでなくとも、怪しげな店にいきなり一人で飛び込むことはないと思いますが…ただ、一般的なオーセンティックバーで「ぼったくられる」ことは、まずないと言っていいでしょう。
老舗のバーで目撃した、偏屈マスターの悪意ある接客 |
「一般的なオーセンティックバーで『ぼったくられる』ということは、まずない」と書きましたが、とある有名観光地の繁華街で、オーセンティックバーでありながら「ぼったくり」に近い現場に遭遇したことがあります。悪意あるマスターがビギナーの一見客を「カモにした」という場面でした。 その店はメディアにもよく登場する老舗で名の知れたバーですが、業界的には「偏屈なマスター(オーナーバーテンダー)の店」との噂もありました。その店の方面へ行く機会があったので、噂の店がどんなものなのか偵察がてら伺い、何知らぬ顔でカウンター飲んでいた時のことでした。 そこへ、出張から帰路につく前に「軽く一杯ひっかけて帰ろうか」という雰囲気の男性客が入って来ました。その客は、マスターにオーダーを聞かれて「水割りを」と言いました。 年季の入ったマスターは虫の居所でも悪かったのか「何の?」とぶっきらぼうに聞くと、客は「ウイスキー」と答えましたが、マスターは重ねて「何の?」と。もう、明らかにビギナーである一見客に対しての、偏屈マスターのいびりの図です。 |
気圧され気味の客は「じゃぁ、スコッチで」と答えましたが、「色々ありますけど」と不親切な返答です。それまでのやりとりを同じ並びのカウンターで聞いているこちらも不愉快でしたが、同時にどういう展開になるのかとの興味もありました。で、このあとが偏屈マスターの真骨頂でした。 マスター「いつもは何をお飲みです?」 ビギナーの一見客「ジョニ赤です」 マスター「ウチは青しかないですけどよろしい?」 ビギナーの一見客「え、えぇ…」 このやり取りを聞いていて「ゲゲッ」と思いました。「ジョニ赤」というのは、スコッチウイスキーの「ジョニーウォーカー・レッドラベル」のこと。かつては海外旅行のおみやげ品として免税店などで人気を博したスコッチ・ウイスキーで、「赤」のほかに「黒」「緑」「金」「プラチナ」などのシリーズがあり「赤」はシリーズのランクでいちばん下位。現在の市価で1本千数百円のスタンダード品です。 ところが、偏屈マスターの言った「青」は、「黒」「緑」「金」「プラチナ」よりも上位でシリーズ最高峰ランクのプレミアム品。「青」の値段は「赤」に比べて、ざっと15~20倍はする高級品です。いつもは赤のスタンダード品を飲んでるというビギナーに、いきなり最高峰ランクのウイスキーを勧めるとは悪意があるとしか思えません。 不愛想で不親切な偏屈マスターの「いじめ」に遭って居心地の悪い思いをしたビギナーは、供されたチャームのミックスナッツと水割りをあおって、そそくさと「お勘定を」。その声にシレッと…。マスターは「はい、五千円」。ビギナーの一見客は、一瞬目をむいて驚きの表情を見せていました。 無理もありません。それを高級ウイスキーと知って注文するのと、知らずに注文したのではダメージが違い過ぎます。しかも、普段はスタンダード品を飲んでいて、小さな豆皿に入ったミックスナッツをポリポリつまみながら飲む水割り1杯で、よもや五千円のお勘定を言われるとは思っていなかったはずです。 ビギナーさんは渋々ながらも、財布から五千円を取り出し「授業料」を払ってそそくさと店をあとにしました。たぶん彼は、この店も、この街も、残念ながらバーという業態のことも嫌いになってしまったことでしょう。 |
バーで支払う値段を高いと思うか妥当だと思うかは、その人の金銭感覚やそのバーのスタイルの違い、飲むお酒のランクや量にもよりますが、一般的な飲食店の価格ランクとすればとすれば、バーはラウンジよりは低いが居酒屋よりは高いという感覚でしょう。日本一地価の高い東京の銀座と地方の田舎町とでは物価の相場も異なりますし、裏町の小ぢんまりしたバーとタワービルの上層階にあるゆったり席のバーとではテナント賃料も異なりますから、それらも勘案された料金設定になっています。
また、バーによっては価格を書いたメニュー表やメニューブックを置いていないお店もあります。そういうバーは「お品書き」のない割烹や寿司屋のように、ちょっと高級なお店の場合が多いのでそのつもりで。また、一般的なオーセンティックバーには、居酒屋で取り扱うような「トリス」や「ブラックニッカ」といった安めの大衆銘柄は扱っていないところがほとんどなので、料金も「それなり」になります。
あと、普通ホテルのバーは飲食代金のほかに「サービス料」として10%ほど加算され、さらにその金額に消費税も上乗せされます。観光地や都心の有名ホテルだと、だいたい小瓶のビール1本で1,000円ぐらいでしょうか。なので、支払う時には1,000円+10%+10%=1,210円という勘定になります。
逆に、オーセンティックな雰囲気もありながら、スタンディングスタイル(立ち飲み)で気軽に飲ませるバーや若者層や外国人旅行者向けのカジュアルなバー、サントリーやキリンなどの酒類メーカー系列が運営するパイロットショップ的なバーは比較的安価ですから、バービギナー向けと言えるでしょう。
「で、結局、オーセンティックバーの料金は?」ということですが、ズバリ、私が行くオーセンティックバーの多くはチャージが300円~1,000円、スタンダードのカクテルが1,000円~1,500円、スタンダードのウイスキーが800円~1,000円といった相場観です。これに「サービル料」か加わる場合もありますし、消費税が課税されます。あくまで私見でザックリとした目安ということでご了解ください。
まぁ、一人で3~4杯飲んで5,000円見当でしょうか。自分ではこれぐらいの料金設定なら「妥当かな」と思っています。これより高いお会計なら「高級な店だな」と思うし、これより安いと「お値打ち感のある店だな」と感じます。ただ、良い雰囲気で楽しめたら多少高くても「また来よう」と思いますし、安くても居心地が悪かったら「二度目は無いな」と思います。
バーへ行くと、必ずバーテンダーがいます。では、そのバーテンダー(Bartender)って何者?ということですが、「Bar」は「酒場」で「tender」には「世話をする」という意味があり、その名のとおり「酒場でお客様のお世話をする人」ということになります。
具体的には、お客さんにお酒をサービスしたり話相手になったりするのですが、一人で来られているお客さん同士で波長が合いそうだと思ったら、さりげなくお客さん同士の会話を橋渡ししたり、逆に、迷惑そうな客だと思ったら引き離したり帰したりなど、店の雰囲気をコントロールする重要な役目があります。そのコントロールが上手なバーテンダーは良いバーテンダーであり、そんなバーテンダーが居る店は良いバーだと言えます。
同じバーテンダーでも「マスター」と呼ばれる人がいます。これはオーナーバーテンダーのことで、店主であるバーテンダーです。また、店主であるオーナーは別にいて、雇われのバーテンダーの場合は単にバーテンダーと呼びますが、ホテルのバーテンダーの場合は「バーマン」ともいいます。なお、雇われのバーテンダーにサブのバーテンダーやスタッフが付いている場合は、チーフとかチーフバーテンダーと呼ばれます。
店主であるマスターは店の経営まで背負っているので、とりわけ店の雰囲気づくりに気を使います。店の雰囲気の良し悪しが経営を左右することになりますので、マスターが店に立っている店は雇われのバーテンダーが切り盛りしているバーに比べエチケットやマナーに多少うるさいかも知れません。ドアを開けて入ってきた初めての客を、ひと目見ただけで「予約で満席です」と店に入れずに追い出すバーテンダーもいるほどです。
けれど、雰囲気に気を使うバーにはマナーをわきまえた筋の良いお客さんが付いています。お行儀の悪い客を放置している荒れたバーには良いお客さんなんか付きません。どうせ行くなら良いバーへ行きたいですね。
ときどき、バーテンダーに「バーテン」と呼びかける人がいます。昔の日活映画で、石原裕次郎や小林旭、渡哲也、宍戸錠などなど、銀幕のスターたちが映画の中で「バーテン」と呼んでいた名残りかも知れません。
けれどバーテンダーのことを「バーテン」と呼ぶのは、いささか蔑視した呼び方なのです。差別用語とまではいかないにしても、警察官を「おまわり」「ポリ公」、土木作業員を「土方」、公務員を「木っ端役人」と呼ぶようなもの。ウィキペディアには「バーテン」について「バーとフーテンを組み合わせた差別的な意味を強く含んだ造語」とあります。蔑視されがちな「水商売」という風俗営業法のカテゴリーだからかも知れません。中には軽くてチャラいバーテンダーもいますが、多くのバーテンダーやホテルマンは誇りと志をもって仕事をしています。
バーテンダーによっては「バーテン」と呼ばれるのを気にする人もおられますが、逆に、バーテンダーからすると「バーテン」と呼ぶ人に対しては内心「このお客さんはこの程度の人か」と、社会的素養の低い人だと思っています。
そういえば、銀幕でバーテンダーを「バーテン」と呼んでいた登場人物たちは、よく店で暴れたり喧嘩をしていました。きっと、社会的素養の低い人物設定だったのでしょう。
バーテンダーには、誰でもなれます。「なりたい」と思えば、お酒やサービスの知識や技術を身に付けて、開業するなり就職すればOKです。業界団体である日本バーテンダー協会や日本ホテルバーメンズ協会などが独自に呼称認定試験で資格制度を導入していますが、これらは民間資格なので必須のライセンスではありませんし、そういう業界団体に属していなくても構いません。風営法上18歳以上であれば誰でもなれます。あとはデザイナーやカメラマン、音楽家、料理研究家のように、勝手に自分でバーテンダーだと名乗れば良いだけの話です。
私の場合、酒類業界にいたものの、未経験の脱サラでバーを開きました。デザイナーもカメラマンも音楽家も料理研究家もそうであるように、プロはプロなりの知識と技術とスキルが必要です。お酒の知識はそこそこありましたが、バーテンダーとしての技術とサービスマンとしてのスキルはゼロからのスタートでした。毎日スリリングでしたが、日々店を営業しながらそれなりに技術もスキルも身についたかなと思います。
酒類業界に身を置く前から、バーでお酒を飲むのが好きでよく足を運んでいました。芸事では「好きこそものの上手なれ」と言いますが、バーでお酒を飲むのは趣味であり道楽で、芸事にも近いかも知れません。なので、バーでお酒を飲むのが好きだったら、バーテンダーになるのはそんなに難しくないと思います。このコンテンツの記事をきっかけに、あちこちのバーへ足を運びバーでお酒を飲むのが好きになったら、転職や脱サラ、定年退職後の職業としてバーテンダーになるのも選択肢になりそうです。