バーに行ってみたい。ワインは好きなのに、ウイスキーやカクテルはよく分からない。一人で入る勇気がない。そんなお悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか?
バーのカウンターに立っていたとき、勇気をもって扉を開けて入ってきてくれる「バーデビュー」のお客様が大好きでした。 バーは、楽しいところなのです(酒類業界紙の編集長時代にお酒やウイスキーの魅力にはまり、オーナーバーテンダーに転向しました)。
バーの楽しみを少しでも多くの人に伝えたくて『BAR初心者のためのBAR一年生』にまとめました。一体、バーってどんなお店なのかを初歩の初歩、基礎の基礎からご案内させていただきます。
居酒屋やカジュアルダイニング、リストランテ・バールなど、ワイワイと喋りながら飲み食いするタイプのお店は入りやすいですが、静かにお酒を楽しむタイプのバーは「ハードルが高そう」と思われる場所のようです。
バーはお酒をメインに楽しむ店なので、未成年者や子供連れでは行けません。でもバーは、成人以上なら年齢と関係なく大人の振る舞いができるなら誰でもウェルカムな場所です。
ただし、成人でもマナーやエチケットが守れない、大人な言動ができない人は行ってはいけないところです。大勢でワイワイガヤガヤと騒ぐ場所ではないので、そういうお店でしか飲食をしたことがない人からすると「堅苦しそうでハードルが高い」と思われるのでしょう。
バーと聞けば、どういうシーンを思い浮かべるでしょう? バーテンダーがシャカシャカとシェーカーを振っている。渋いオジサマがグラスの氷をカランと鳴らしながら一人酒を飲んでいる。カップルがフルーツの飾りの付いたカクテルを前に愛をささやき合っている。失恋した女性があおるようにウイスキーを飲んでいる…。映画やドラマで見かける場面ですが、どれも外れてはいないと思います。
しかし、ひとくちにバーにといってもバーにはいろんなタイプがあります。
バーにはまだまだたくさんの業態がありますが、ここでいうバーは、洋酒やカクテルを飲ませることをメインにしたバー。オーセンティックバーといわれる正統派タイプのバーです。
何をもってオーセンティックバーと言うのか、明確な定義はありません。しかし、あえて言うなら、オーセンティックバーのバーテンダーは洋酒やカクテルについてそれなりの知識や技術を持っていて、ネクタイを締め、清潔できちんとした身だしなみで言葉づかいや口調もサービスマンらしく丁寧にしています。
一般的に店はカウンター席がメインで、ボトル棚にはぎっしりと洋酒が並べられていて、飲み方に合わせたさまざまなグラスが用意されている…といった店が、本格派、正統派と言われるオーセンティックバーに当たります。
「バーで飲む」というのは家でお酒を飲むのとは違います。例えばDVDではなく映画館で映画を観る、テレビではなくスタジアムへ行って野球を観戦するなどに似ています。オーセンティックバーへ足を運ぶ人は洋酒が好きなのはもちろんですが、「バーで洋酒を飲むこと」自体が好きなのです。それなりの技術と知識を持っているバーテンダーからきちんとした接客を受けながら洋酒を飲むことを楽しみに来られます。そして、そんなお客さんたちが集う店がオーセンティックバーだと思います。ここでは、紳士淑女が集うオーセンティックバーを念頭に置いてバーのお話をさせていただきます。
居酒屋には居酒屋の楽しみ方があるように、バーにはバーの楽しみ方があります。その楽しみ方も様々で、自分の内面と語らいながら一人黙々と杯を重ねるのが好きな人もおられますし、飲みながら酒のウンチクを語るのが好きな人もおられます。
ですが、バーは大人の社交場という一面もあります。客とバーテンダー、居合わせた客同士が、たわいもない世間話を転がしながらグラスを傾けるのが、健全なバーの楽しみ方だと思います。
バーは一人飲みをする人が多いです。というか、むしろそれが当たり前。一人飲みをする人が心地よい時間を過ごす場所なので、店側も一人客を歓迎します。バーの業態にもよりますが、オーセンティックなバーは、カウンター席がメインで1人か2人での来店が普通です。テーブル席を設けているオーセンティックバーでも、せいぜい4人までのところが多いです。
バーは「紳士淑女の社交場」ともいわれます。ですので大声を出したり奇声を発したり、芸なしタレントのように手を叩きながらのバカ笑いはマナー違反です。一人ひとりは静かで大人しくても、だいたい人数が多くなると気も大きくなってタガが外れてしまうもの。なので、大人数の入店は断るバーも少なくありません。
一般的にバーといえば洋酒を飲ませるお店を指しますが、ワインがメインのワインバーやクラフトビールのビアバーをはじめ、日本酒バーや焼酎バーといった、それぞれのお酒の種類に特化したバーもあります。
お酒の種類は違っても、だいたいバーはハードルが高いどころか、一人飲みができる大人の酒場です。「バー」と名乗るお店はカウンター席がメインです。その種類のお酒に詳しい利酒師やソムリエ、マイスターらがバーテンダーとして切り盛りし、その種類のお酒の普及啓もうを兼ねながらお店を営んでいます。オーセンティックバーと同じく、大勢で押しかけたり騒がしい客は、入店を断られたり注意をされたりするでしょう。
バーはハードルが高いどころか、一人飲みができる大人の酒場です。バーへ足を運ぶ人は、嗜好品としてお酒が好きで、一人飲みを好む大人たちです。バーテンダーは、そんな一人客を守るため、同好の士が語らう店の雰囲気を壊さないよう気遣っているわけです。
ゆっくり静かに一人飲みを楽しみたいなら、安全で居心地が良い場所こそバーなのです。
お酒の知識がないから、何をどう注文していいか分からない…。バー初心者からは、よくそんな声を耳にします。たぶん、お酒のことをよく知らないから「バーはハードルが高い」と思われているのでしょう。
基本的にバーは洋酒を楽しむ店なので、洋酒を注文して飲めばいいだけの話です…というと身も蓋もありません。実際はお酒の知識なんかなくても大丈夫です。その案内役がバーテンダーですから「知らない」「分からない」でも何ら問題ありません。
でもでも、お酒のことまったく知らないのと、少しでも知っているのとでは楽しさが違ってきます。スポーツを観戦するときに、ルールを知らずに観戦するのと知って観戦するのでは楽しみ方が違うのと同じです。ここでは、バー初心者のためのお酒の基礎の基礎をガイドをさせていただきます。
お酒を飲んだことがあっても「お酒のことは全然わからない」という人を前提に、そもそもお酒って何ぞ? という解説です。 お酒は「アルコール」です。そのアルコールを「人為的に造り出す」のがお酒ですが、アルコールを造り出す原料になるのは甘味のもとになる「糖」です。この糖に酵母を加えて発酵させるとアルコール、つまりお酒になるわけです。酵母という菌が糖をエサにしてアルコールを生み出すのだと思ってください。こうして造ったお酒のことを「醸造酒(じょうぞうしゅ)」といいます。
この醸造酒は、原料によって種類が変わります。代表的なお酒の種類で言うと、お米を原料にした醸造酒が日本酒、大麦を原料にした醸造酒がビール、ぶどうを原料にした醸造酒がワインです。
なお、ぶどうの果実はもともと糖分を持っているので、潰して酵母を加えると発酵します。ですが、お米や大麦などの穀物はそのままでは発酵しないので、お米や大麦に含まれている「でんぷん」を酵素の力で糖に変える工程がその前に入ります。お米は麹(こうじ)というカビの酵素で、大麦は発芽したときにできる麦芽酵素で糖を造って発酵させることになります。
さて次に、バーでの洋酒の主力となるお酒は「蒸留酒(じょうりゅうしゅ)」といわれるお酒です。少しややこしくなるかも知れませんが、この蒸留酒の原料となるのは、先に解説した醸造酒です。
小学校の理科の授業で、泥水から「蒸留水」を取り出す実験をされた方もおられるかと思います。フラスコに泥水を入れてアルコールランプで沸かし、その蒸気をガラス管を通してビーカーに水滴を集める実験です。
蒸留酒を造るのも、あの泥水から蒸留水を取り出す方法と原理は同じです。醸造酒を加熱すると、水(100℃)より沸点の低いアルコール(78.3℃)が気体として出てくるので、それを集めて冷やした液体が蒸留酒というわけです。ですので、蒸留酒は醸造酒からアルコールを抽出するので度数が高くなっています。
醸造酒が蒸留酒になるといわれてもピンと来ないかも知れませんが、いささか乱暴に言うと、日本酒を蒸溜したのが米焼酎、ビールを蒸溜したのが麦焼酎やウイスキー、ワインを蒸溜したのがブランデーです。実際は、ちゃんとした製品の日本酒やビール、ワインを造ってから蒸溜するわけではなく、まず「もろみ」や「ウォッシュ」と呼ばれる半製品の醸造酒を造ってそれを蒸溜させて造ります。
●第三の分類「混成酒」 バー初心者に小難しいお酒の種類の話でお腹がいっぱいになってしまうと思いますので、ここでのお話は「ついで」ぐらいに。 お酒の種類に醸造酒と蒸留酒があるのをご紹介しましたが、もう一つ「混成酒(こんせいしゅ)」という分類があります。 混成酒は、醸造酒や蒸留酒をベースに、ハーブやスパイス、果実、糖分、香料などを加えたり漬け込んでエキスを抽出したお酒です。バーではカクテルに彩と香りを添える様々なリキュールや、ワインにハーブを漬け込んだベルモット、ワインの発酵中や熟成中にブランデーを加えるシェリー酒が混成酒に分類されます。 そのほか、フルーツを漬け込んだ果実のお酒や梅酒、もち米に麹と焼酎を加えて作るみりん、草根木皮を漬けて造る薬用酒などがあります。 |
「で、洋酒は?」という話ですが、もう少しお待ちください。バーで扱うお酒は洋酒ですが、洋酒は醸造酒や蒸留酒、混成酒といった造り方のことではなく、日本酒や焼酎、みりんを「和酒」と言うのに対して、外国由来のお酒を「洋酒」としています。ですのでバーではビールもワインも外国由来のお酒なので「洋酒」のカテゴリーに入ります。
ここまでで登場したお酒で、バーで扱う洋酒は、醸造酒のビールとワイン、蒸留酒のウイスキーとブランデー、混成酒のリキュールなどですが、中でもメインとなるお酒は「蒸留酒」です。
お酒の業界では、蒸留酒全般のことを「スピリッツ」と言います。焼酎もウイスキーもブランデーも広義の意味ではスピリッツなのですが、一般的に焼酎やウイスキーやブランデーは「スピリッツ」とはいいません。「ん? 矛盾してない?」と、少し混乱するかも知れませんが、バーで扱う洋酒の蒸留酒は、ウイスキーとブランデーと「それ以外のスピリッツ」なのです。
バーで扱う「それ以外のスピリッツ」で、とりわけ登場するのは「4大スピリッツ」と称されるジン、ウォッカ、ラム、テキーラです。これらのスピリッツを実際に飲まれたことがなくても耳にされたことはあるかも知れません。『名探偵コナン』に登場する「黒の組織」のメンバーのコードネームに使われているので有名ですね。『名探偵コナン』の作者の青山剛昌さんもバーがお好きなのでしょうか。
いちどにお酒の知識を詰め込んではさらに混乱しそうなので、ここは4大スピリッツについてサラッと解説します。
ジン | 糖蜜やジャガイモ、トウモロコシ、大麦、ライ麦などを原料に、ジュニバ・ベリーというヒノキ科の針葉樹(杜松=ねず)の実を主体に、オレンジやレモンの皮、コリアンダー、シナモンなどのフレーバーを付けたスピリッツです。 「カクテルの王様」と称されるマティーニは、ジンにベルモットと合わせオリーブの実を飾るカクテルとして有名です。ほかにも、トニック・ウォーターで割るジン・トニック、ライムを加えてソーダで割るジン・リッキーなど数多くのカクテルのベースとして使われています。 主産地はイギリスのロンドンですが、数年前から「クラフトジン」と呼ばれる小規模蒸溜所で造られるジンが登場し、日本の各地でも造られています。クラフトジンを専門に扱うバーもあるほど、最近はちょっとしたブームになっています。 |
---|---|
ウォッカ | 大麦や小麦、ライ麦、ジャガイモなどの穀物を原料にして造るスピリッツです。柑橘類やハーブ、スパイスのフレーバーを付けたウォッカもありますが、その多くは無色透明無味無臭でクリーンな味わい。ロシアやポーランド、北欧、アメリカが主産地です。 フレーバー・ウォッカ以外はそのまま飲まれることは少なく、カクテルのベースとして使われるのが一般的です。ジンジャエールとライムジュースを加えるモスコ・ミュールや、オレンジジュースで割るスクリュー・ドライバー、グレープフルーツジュースで割ってグラスの縁に塩をデコレーションするソルティー・ドッグなどが有名です。 フレーバー・ウォッカでは、桜やヨモギに似た香りがするズブロッカ、柑橘系の香りがするアブソリュート・シトロン、変わり種でトウガラシ風味のペルツフォカなどがあります。 |
ラム | お菓子作りや料理でも使われるため、子羊肉のラムと混同しないよう「ラム酒」とも呼ばれています。原材料は、サトウキビから砂糖を作るときの副産物のモラセスと呼ばれる糖蜜です。ラムはサトウキビに由来するほのかに甘い香りと味わいが特徴で、バーではカクテルはもちろんそのまま飲む人も少なくありません。 主産地は中南米・カリブの国々、島々。色合いから無色透明のホワイト・ラム、樽で熟成させた黄金色のゴールド・ラム、長期熟成の高級品やカラメルで着色され製菓にも使われるダーク・ラムに分類されています。ホワイト・ラムはカクテルのベースとしてもよく使われ、有名なところではライムジュースとシロップで作るダイキリ、ライムとミントを加えてソーダで割るモヒート、ライムを加えてコーラで割るキューバ・リブレでしょうか。 |
テキーラ | よく、サボテンから造られていると思われがちですが、それは間違い。メキシコの特産で、アガベ(竜舌蘭)と呼ばれる多肉植物の茎を原料にしています。 スタンダード品は砂糖などの副原料を使っていて、バーでは主にカクテルに使われることが多いです。有名なところでは、ホワイトキュラソーという柑橘系の甘いリキュールとライムジュースで造るマルガリータ、オレンジジュースで割ってグラスの底にグレナデンシロップを沈めるテキーラ・サンライズでしょう。 副原料を使わない100%アガベのプレミアム・テキーラは、カクテルのほかストレートやロックで。櫛切りのライムと塩を口に含んで飲むのがメキシコのスタイルだそうです。 |