『買い物ブギー』は、笠置シヅ子さんが炸裂の大阪弁で40品目をまくしたてながら買い物をする「大阪のおばちゃんがほたえてる」歌である。1950年に発売されて大ヒットした歌謡曲で、その『買い物ブギー』の歌詞に、こんな台詞が登場する。
♪ チョット オッサン、こんにちは
チョット オッサン、これなんぼ?
オッサン、オッサン、これなんぼ?
ちょっと オッサン、これなんぼ?
『買い物ブギー』歌:笠置シヅ子 作詞:村雨まさを 作曲:服部良一
すごい歌詞である。ちょっとオッサン、オッサンオッサン…なんて、リズム感が乏しいといわれている日本語だけれど、リズムも音も、はねている。
大阪人が日常よく使う「これ、なんぼ?」が、歌として成立しているのは、関西弁だからこそだろう。試しに『買い物ブギー』のサビを標準語にしてみると、それでどうしてん…という感じになってしまう。歌詞にも、お話にもなっていない。
おじさん、おじさん、これいくら?
ちょっとおじさん、これいくら?
ちなみに関西、特に大阪でおじさんに呼びかけるならば、俄然「オッサン」ではなく「おっちゃん」である。「オッサン」なんて呼びかけようものなら、間違いなく無事にはすまされない目に合うはずだ。そう、「オッサン」とは、自分で自分を貶める自虐ネタであり、人に向けるならさげすみの言葉なのである。
その「オッサン」を歌詞に使って連呼させ、45万部もの大ヒットにした作詞家の ”村雨まさを” さんは、『蘇州夜曲』『山寺の和尚さん』『青い山脈』など数々の名曲を手がけた、あの大作曲家である服部良一さんのペンネームなのである。『買い物ブギー』は作詞も作曲も服部良一さんなのだ。
『買い物ブギー』は上方落語をヒントに生まれた歌というけれど、服部良一さんのご出身はさすが!大阪の天王寺。ネイティブゆえの選語センス!これが日本中で大ヒットしたというのだから、大阪弁も使いようなのかもしれない。
他県から大阪に行く機会があるなら、ぜひ店頭でおっちゃんに「ちょっと、オッサン、これ、なんぼ?」と呼びかけてみてほしい。たぶんかなりの確率でこんな返事が返ってくるはず。
「なんやと!誰がオッサンやねん!!お兄ィちゃん言え!」
ホンマに、よぅ言わんわ…。
なお、歌詞中の「ああしんど」は、収録中に思わずつぶやいていた笠置シヅ子さんのアドリブだそうです。